なぜ管理栄養士は低年収なのか

管理栄養士として働いている方の中には、職場がブラックだったり、人間関係の悪さより転職を繰り返している人も多いかと思います。これはいろいろな理由がありますが、大きな理由の一つとして社会的地位の低さ・低年収が挙げられるということは有名です。この記事では、なぜ管理栄養士が低年収であるかを、管理栄養士目線で解説していきます。

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なぜ管理栄養士は低年収なのか

管理栄養士って本当に年収が低いですよね。年収を、他職種と比較してみましょう。

他コメディカルとの年収比較

医療系他職種:コメディカルとの比較をしてみましょう。

栄養士・管理栄養士、理学療法士・作業療法士、臨床検査技師、看護師、薬剤師を比較してみましょう。

コメディカル年収比較

※縦軸は(千円)

このグラフは政府の行った賃金構造基本統計調査を基にして算出したものです。女性の職種ごと、年齢別比較です。データの信用性・妥当性は他の企業が行っているものより高いです。

この調査には管理栄養士だけでなく、栄養士のデータも混ざっているため、数値は純粋な管理栄養士の年収ではないため、あなたがもし管理栄養士、または管理栄養士志望の方であるならば、平均的にもうほんの少し程度良い可能性はあります。しかしそれでも、管理栄養士・栄養士の年収は低いことが見て取れるでしょう。女性の場合は、多くのケースで出産、産休を経て一時的に社会活動から遠のいてしまうという特徴はあるため、このグラフはある意味、職種ごとの女性の社会的地位や働きやすさの指標の一つとも考えられます

看護師や臨床検査技師の30歳〜50歳までの伸びが低いことは、離職率が高いことや、職場復帰率が低い可能性を示唆していたり、薬剤師の25歳から40歳までの伸びは、離職せずに現役で続けている人が多い可能性があるなど、このグラフから様々な事柄が考察できます。しかし、いずれにせよ管理栄養士・栄養士は年収は低水準であるため、やはり他職種と比較しても、社会的地位が低いと言えども、高いことはなさそうです。

管理栄養士・栄養士ってどうやって誕生したの?

そもそも管理栄養士ってどうやって誕生したか知ってますか?

1924年(大正13年)、私立の栄養研究所跡に、佐伯 矩(さいき ただす)が世界初の栄養士養成施設である栄養学校、現在の佐伯栄養専門学校を開設されました。その2年後、大正15年3月15日(1926年)栄養学校第1回卒業生13名が「栄養手」と呼ばれて世に出ました。

佐伯矩

佐伯矩(東京都大田区にて)

昭和22年(1947年)栄養士の誕生

またその後、栄養士規則、私立栄養士養成所指定規則公布(即日施行)が交付されました。これは食料事情に鑑み、栄養士養成が緊要の課題であるとの観点から、国民栄養に関する指導の統一と徹底を図ることを目的として、栄養士の身分とその業務が、国家的に定められたわけです。養成施設として14校を指定されました。その後、栄養学校卒業生全てが栄養士として認められました。

昭和22年12月29日(1947年)栄養士法公布(昭和23年1月1日施行)「栄養士とは、栄養士の名称を用いて栄養の指導に従事することを業とする者をいう」と初めて定義されました。

昭和37年(1962年)管理栄養士の誕生

昭和37年9月13日(1962年)栄養士法等一部改正公布(昭和38年4月1日施行)

管理栄養士制度の創設されました。この時はまだ試験制度でなく、登録制でした。また栄養改善法の一部改正公布(昭和39年4月1日施行)集団給食施設へ栄養士・管理栄養士の配置の努力規定が定められました。

昭和50年代~平成20年代:栄養士制度の改正と業務の拡充

食生活の乱れや、運動不足、脂質の過剰摂取など、国民生活の変化が顕著になり、成人病(生活習慣病)が問題になってきました。管理栄養士の免許制への移行、栄養教諭の誕生など、栄養士業務の重要性がさらに認知されるに伴い、栄養士の卒後教育の制度も充実していきました。

平成4年(1992年)診療報酬加算が取れるようになった

平成4年 食事栄養指導料(外来)算定

平成8年 集団栄養食事指導料算定

平成12年(2000年)管理栄養士の業務が明確に

平成12年4月7日(2000年)栄養士法一部改正、公布(平成14年4月1日施行)により、管理栄養士が登録から免許になり、業務が明確に規定され、第6条の「名称使用の制限」の内容に「無資格者の業務規制」が加わりました。

平成17年(2005年)介護報酬加算が取れるようになった

平成17年10月1日(2005年)栄養マネジメント加算認められる(介護報酬)14単位/日。

平成21(2009)年4月からは障がい(児)者施設入居者にも。

栄養管理実施加算認められる(診療報酬)12点/日。

平成18年4月1日(2006年)に栄養管理実施加算が認められましたが、平成24(2012)年4月に入院基本料に包括されました。

平成20年(2008年)予防医療の担い手として、管理栄養士の重要性が増す

平成20年4月1日(2008年)特定健診・特定保健指導開始医療保険者に義務付け、メタボリックシンドロームの概念を導入したプログラムにより実施。管理栄養士は、医師・保健師とともに指導の担い手として位置付けられました。

平成20年9月1日(2008年)栄養ケア・ステーション開設

地域住民が、栄養相談・指導を受けられる場として、日本栄養会館に設置。

平成22年(2010年)管理栄養士がチーム医療の中核へ

平成22年4月1日(2010年)

栄養サポートチーム加算認められる(診療報酬)

平成28年度(2010年)診療報酬改定、20年振りに栄養食事指導料増額

栄養食事指導料初回が260点に倍増、2回目以降も130点に増額し、指導の対象にがん、摂食・嚥下機能低下、低栄養が加わり、在宅患者訪問栄養食事指導料算定要件から調理が削除されました。

診療報酬について

診療報酬は原則として2年に1回、厚生労働大臣が中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問し、中医協総会からの答申を得て、告示、関係通知が示されます。改定率は厚生労働省が2年に1度実施する医療経済実態調査によって把握される全国の医療機関の平均的な収支状況、賃金などの動向といったマクロの経済指標、保険財政の状況などに鑑み決定されます。

介護報酬について

介護報酬とは、事業者が利用者(要介護者又は要支援者)に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に支払われるサービス費用をいいます。

介護報酬は各サービス毎に設定されており、各サービスの基本的なサービス提供に係る費用に加えて、各事業所のサービス提供体制や利用者の状況等に応じて加算・減算される仕組みとなっています。

なお、介護報酬は、3年ごとに見直されており、介護保険法上、厚生労働大臣が社会保障審議会(介護給付費分科会)の意見を聞いて定めることとされています。(厚生労働省ホームページより引用一部改編)


上記が管理栄養士・栄養士の歴史概略です。

栄養失調から生活習慣病予防の担い手、さらにはNSTを始めとする医療分野におけるチーム医療の中核を担うようになるなど、時代の変遷とともに、管理栄養士の社会的意義は変化しています。今後は歴史上類を見ない超高齢社会を迎え、管理栄養士の役割はさらに重要となってくるでしょう。

また診療報酬や介護報酬の観点からも栄養サポートチーム加算が出来るまでは、管理栄養士の診療報酬加算は非常に少なく、病院としても積極的に管理栄養士を雇おうとすることはありませんでしたが、徐々に他コメディカルの水準へと近づくにつれて、管理栄養士を積極的に雇うことで、病院としての経営が効率化される側面も出てきたため、今後は更なる雇用改善が期待できるでしょう。

今後の管理栄養士のさらなる地位向上・待遇向上のために

管理栄養士の卒後教育が重要となってきます。

わが国管理栄養士養成校の問題点

国立大学が3つだけ?!

わが国管理栄養士養成校の問題点として、国立大学が3つしかないことが挙げられます。しかもそのうち2つは女子大学です。👉徳島大学お茶の水女子大学奈良女子大学

他コメディカルの国立大学事情

これが例えば理学療法士であれば、旧帝大の北海道大学、名古屋大学、京都大学。また旧官立大学の神戸大、広島大をはじめとした13校と、公立大学が10校あります。

また放射線技師などは、旧帝大の北海道大学、東北大学、名古屋大学、大阪大学、九州大学を始めとした10校があり、公立大学は3校です

臨床検査技師は国公立は前述した他コメディカルと同様に旧帝大、東京医科歯科大学含む22校 公立3校です。

薬剤師や看護師挙げるまでもありません。殆どの国立大学にあります。(看護は国立42 公立50)

国立大学が少ないことの弊害
研究力不足

他職種の養成校と比較すると、管理栄養士養成校には、研究能力としての機能が他職種と比べて皆無と言っていいほど弱いです。国立大学が少ない、すなわち研究能力が低いことよりエビデンスが生まれにくく、政治力も育ちにくく(管理栄養士の政治家はほぼいません)こういった背景から管理栄養士の地位・年収が低いという背景もあるのです。

優秀な学生が集まらない

また国立大学が少ないことの弊害は他にも有り、具体的な事柄を上げるのであれば、偏差値が上がらず、優秀な学生が集まらないということもあります。

負のスパイラルへ

前述したように、エビデンスが生まれにくい、政治力がない、結果として管理栄養士になりたいという受験生が集まらない、偏差値が下がる、社会的地位も上がらないという悪循環となります。こういった流れが卒後教育を悪化させ(誰も新人を教育できない)、業務効率を悪化させ、ブラックな職場を生み出してしまうと考えられるのです。

これからの時代は専門性を上げる必要性がある

このような現状を打破するには、上記で挙げたことの対策を行っていけばよいわけです。しかし、学校の偏差値などに関しては上げようがありませんから、やることといえば、

★専門性の突出・分化が必要。

専門性を高めることにより、管理栄養士は栄養・管理を全て幅広く担うというわけでなく、チームの一員として働くという発想転換が必要です。

チームの一員として管理栄養士の価値を見出す

これまでの管理栄養士は、給食管理も、栄養管理もやり、結果として社会的な価値創出にまで至りませんでした。

これからはチームの一員としてどのように貢献できるかということが更に求められてきます。

全ての能力が高くなくとも、一つだけ突出した能力があれば、管理栄養士も活躍できる場を作ることが非常に大切となってきます。

分野に秀でれば、少なくともその分野の発信力、政治力は上がります。

関連学会の認定資格創出と算定要件に関する近年の動き

今後は管理栄養士は、専門分野に分かれ、進化していくでしょう。現に、栄養士会を始めとし、臨床栄養系の学会である日本臨床栄養代謝学会や日本病態栄養学会などが、それぞれ認定資格を作り始めました。また2020年の診療報酬改定では、ICU(特定集中治療室)での栄養管理の評価がされ、早期栄養介入管理加算として400点/日がつくことになりました。これは管理栄養士が関わる仕事の中で最も評価の高い加算です。この加算を取得するには、単なる管理栄養士ではなく、一定の所定の経験を積んだ管理栄養士が求められます。

このように診療報酬の面でも徐々に専門化された、管理栄養士により多くの点数をつくような時代へと突入してきているわけです。

結論

管理栄養士として、一通りの業務を覚えることは大切です。特に近年では委託給食業者の入っている病院に就職した新卒の管理栄養士は給食業務をやれる機会があまりないという問題もあります。

しかし、ある一定の経験を積んだあとには、自分の専門性を高める勉強をしていくことがやはり大切です。突出した何かを身に着けなければ価値を生み出すことは難しい時代です。

専門性を身に着け、然るべき適切な場に発信する。(これはTwitterやブログで発信も良いですが、学会発表や論文などを出すということです)こういった積み重ねを少しずつすることで、貴方の価値があがるだけでなく、管理栄養士全体の価値が上がっていくのです

これを読んだ、受験生の方、あるいはその保護者の方へ

管理栄養士に関する厳しい現実を書きましたが、管理栄養士という仕事はとても素晴らしいものです。また、今後はより地位も年収も職場環境も向上していくでしょう。

管理栄養士になるための基礎を作るため、大学選びはよく考えて下さい。

合わせて読みたい👉管理栄養士になりたい人のための大学選び

国公立大学は少人数制なのでどこもおすすめですが、私立大学もいい大学はあります。

もしなにか聞きたいこと等ありましたら、ご相談にのることも出来ますので、ご連絡下さい。