
管理栄養士として働く以上は、新しい情報を常に収集する必要性があります。新しい情報を収集する手段として、特に代表的で最も有効なものは、論文を読むことです。栄養系の論文では、様々な解析方法が登場しますが、この記事では、スクリーニングについて、初歩的な内容について解説をしていきたいと思います。
■目次(押すとジャンプします)
スクリーニングとは
スクリーニングとは、「選抜すること」で、ある集団から特定の性質をもつものを抽出することです。
集団から特定の性質のものを抽出するには様々な方法があります。
例えば、ある小学校で6年生のクラスを想定してみてください。そこで身長145cm以上の子どもを選抜するにはどうすればよいでしょうか?
身長計で、一人ひとり身長を図り、そこでふるいにかければよいですね。

では例えば、ある集団10000人を対象として、新型のウイルス感染症者を、抽出するにはどうすればよいでしょうか。
新型のウイルス感染症者を抽出するには、多くの人がご存知の通りPCR検査などが有名です。
しかし、ここである一つの疑問が生じます。
どれくらいの「確からしさ」で抽出してくれるのだろうか、と。
敏感度と特異度
ここで出てくることが、「敏感度」と「特異度」という言葉です。
敏感度とは、真に陽性の人を、陽性であると判定してくれる確率のことであり、
特異度とは、真に陰性の人を、陰性であると判定してくれる確率のことです。
ここで仮にPCR検査の敏感度を70%とし、特異度を99%と仮定した場合、前述した集団10000人から新型のウイルス感染者を抽出する方法を考えていきましょう。
集団10000人のウイルス感染者が1%だったとしましょう。
すると、10000人×0.01=100人が真の陽性者の数です。(下図赤色が真の陽性者)

集団10000人にPCR検査(敏感度を70%、特異度を99%)を実施した場合、陽性者を陽性と判定する確率が70%ですので、70人が抽出されます。

※残りの30人は真に陽性であるが、検査上は陰性となってしまう。(上図の30人(−))※このことを偽陰性という
また、陰性者を陰性と判定する確率が、99%であるため、
真の陰性者9900人×0.99=9801人が陰性であると判定されます。
残りの、9900-9801=99人が、真に陰性であるが、検査上は陽性とされてしまいます。

このことを偽陽性と言います。(上図の99人(+))
するとどうなるか。
本来であれば、真の陽性は100人、真の陰性は9900人であるが、検査上では
- 陽性者:169人(うち70人が感染者)
- 陰性者:9831人(うち30人が感染者)
となるのです。

検査で陽性と判断された169人のうち99人が陰性であるということは、この条件においては、検査で陽性と判断された者は、実際は半分以上(58.6%)が陰性であるということになります。(99÷169=0.586)
意外にいい加減な検査だと思った方もいると思います。
しかし、以下のように表現してみると、また違った印象を得ることができます。
- 検査が陽性で、感染している確率:41.4%
- 検査が陰性で、感染している確率:0.3%
- 検査なしで、感染している確率:0.01%
検査なしで、感染している確率(0.01%)より、検査が陽性で、感染している確率(41.4%)の方がはるかに高いわけですから、この場合は、感染者を特定するという意味で、PCRでスクリーニングを行うことは十分に意味があるとも言えるでしょう。
また、今回は集団10000人の新型ウイルスの感染者を1%と設定していましたが、この割合が大きいほど、偽陽性の数は減ることがわかっています。以下
新型ウイルスの感染者を10%とした場合
仮に、新型ウイルスの感染者を10%としたら、(方法は前述と全く同じ手順で算出することが出来るため割愛)
- 検査が陽性で、感染している確率:76.9%
- 検査が陰性で、感染している確率:3%
- 検査なしで、感染している確率:0.1%
となります。
新型ウイルスの感染者を20%とした場合
- 検査が陽性で、感染している確率:94.9%
- 検査が陰性で、感染している確率:7%
- 検査なしで、感染している確率:0.1%
新型ウイルスの感染者を40%とした場合
- 検査が陽性で、感染している確率:97.9%
- 検査が陰性で、感染している確率:16.8%
- 検査なしで、感染している確率:0.1%
罹患率の推移とPCRスクリーニングの精度の関係
罹患率の推移とPCRスクリーニングの精度の関係は以下の様になります

罹患率によって、スクリーニングの精度は変わってくることがわかりましたが、それ以外に、このPCR検査(敏感度を70%、特異度を99%)の精度を高める方法はあるのでしょうか?
敏感度と特異度はトレードオフの関係となる
例えば、敏感度70%をもっと上げようとすると、偽陰性の数は減る代わりに、偽陽性率の数が増えてしまいます。もう少し平たく言うと
敏感度を上げると、真の陽性者を陽性と判定する確率は増えます。しかし、敏感度をあげることによる副作用で真の陰性者を陽性と判定する確率も同時に増えてしまいます。これをトレードオフの関係といいます。
そこで、一番よい頃合いに検査の敏感度が設定されるべきであり、これを検討する際にROC曲線がよく使われます。
ROC曲線
ROC曲線とは、縦軸を偽陽性率、横軸を敏感度とした曲線です。これは学術論文によく出てきます。
こんなのです↓

下図をみてみましょう。敏感度を可能な限り高くする、右上の端に行きます(敏感度1、偽陽性率1)。※敏感度を可能な限り高くすると、偽陽性率も高くなります。
敏感度を少し下げていくと、偽陽性率が下がります(赤矢印)。最終的には一番左の端に到達します(敏感度0、偽陽性率0)

上の図から、もっともスクリーニング検査のバランスよいポイントを見つけるためには、y=xを平行移動させて、もっとも下の面積が大きくなる点を見つければよいわけです。(これをAUC(Area Under the Curve)といいます。)
下図では、赤線が、階段状の線と交わる点、この2つのポイントが、敏感度、偽陽性率のバランスが最も良くなる点(=AUCが最も大きくなる点)となります。
このAUCが最も大きくなる点に設定され、スクリーニングは運用されます。
※下図の赤点がAUCが最大になるポイント。

これをROC曲線の簡単な見方です。
管理栄養士としては、ROC曲線の簡単な見方を覚えておくことはとても大切です。
敏感度と特異度の言葉の意味と、これらはトレードオフの関係であること、またROC曲線の簡単な見方は必ず押させておきましょう。