老人ホームでの管理栄養士の働き方

年々高齢化が進み、高齢者の栄養管理がとても大切であるという認識が年々高まってきており、それに伴い、老人ホームでの管理栄養士の地位も上がってきているようです。

いわゆる老人ホームといっても種類はたくさんあります。民間や公的の違い、介護、看護、医療の必要度など本人の身体の状況や、家族の状況また経済状況などに合わせて様々な形態のものがあります。

この記事では主に管理栄養士が勤務していることの多い特別養護老人ホーム(いわゆる特養)と介護老人保健施設(いわゆる老健)について仕事内容や待遇などを解説します。

老人のホームの種類について

  • 特別養護老人ホーム(いわゆる特養)
  • 介護老人保健施設(いわゆる老健)
介護老人保健施設(いわゆる老健) 特別養護老人ホーム(いわゆる特養)
管理栄養士必置条件(重要) 1回300食以上又は1日750食以上 1回 500食以上又は
1日1500食以上の食事を供給す
るもの
医師 常勤1人(入所者100人に対し) 1人(非常勤可)(入所者100人に対し)
看護職員 9人(入所者100人に対し) 3人(入所者100人に対し)
介護職員 25人(入所者100人に対し) 31人(入所者100人に対し)
リハビリ専門スタッフ 1人(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のいずれか資格を持つもの)
施設の役割 要介護高齢者にリハビリ等を提供し在宅復帰を目指す施設 中~重度の要介護高齢者が身体介護や生活支援を受けて居住する施設
入居条件 要介護1~5 (原則)要介護3~5
サービス内容 医療的ケアとリハビリ 身体介護を中心とした自立支援
設備 居室や生活に必要な設備に加え、リハビリに重点を置かれた設備が充実 居室、浴室、トイレ、食堂など生活に必要な設備が中心
居室タイプ 個室/多床室 個室/多床室
居室面積 8㎡以上 10.65㎡以上
費用 入居一時金:なし 月額費用:9~20万円 入居一時金:なし 月額費用:8~13万円
入居期間 原則3ヶ月 終身利用
入居難易度 特養と比べると待機者は少なく比較的入居しやすい。 入居待機者が多く数ヶ月以上待つ場合がある。

具体的な仕事内容は?

忘れてはいけない給食管理の目的

老人ホーム(特に介護老人保健施設、介護医療院、老人福祉施設)における給食の目的は、利用者個人の栄養アセスメントに基づく食事提供を通じて介護、保健、治療、リハビリ等に寄与することです。
高齢者を対象とした施設は多様な種類があり、入所サービスか通所サービスか、また対象者の健康状態や生活状況により、栄養管理の方法は異なります。高齢者の栄養管理の重要な問題点としては、十分に口からエネルギーを摂取できないことにあります。
入所者さんの特性(年齢や体格、身体状況)を考慮し、それに応じた栄養価の計算をすることはもちろんですが、嚥下機能が低下している方も多く入所してくるので、食形態(きざみ食、ミキサー食、ゼリー食、ソフト食)にも留意します。高齢者の低栄養予防やフレイル予防については、日本人の食事摂取基準(2020 年版)を活用して、エネルギーや栄養素量を設定しますが、要介護者や要支援者に対しては、個々の状況に即した柔軟な対応が望まれます。ハリスベネディクトの公式を活用される場合もあります。
特に、介護保険施設では、入所者の栄養状態、身体の状況並びに病状および嗜好を定期的に把握し、それに基づく食事の提供を行う「栄養ケアマネジメント」として、管理栄養士を中心に、医師、看護師、介護支援専門員等との連携体制で栄養管理を進める必要があります。

栄養ケアマネジメント

栄養ケアマネージメントとは、多職種で連携し入所者の栄養管理計画を作成し、把握する手法のことを言います。
入所者ごと、身長・体重、栄養状態、摂食・嚥下能力の評価を実施し、その方に見合った食事を提供する目的で行われます。

手順としては以下

スクリーニングの実施

BMI、体重減少率、血清アルブミン値、食事摂 取量、褥瘡の有無などにより低栄養状態のリスクレベルを把握する。全ての項目が低リスクに 該当する場合には低リスク、項目のうち中リスク以上がひとつでもあれば中・高リスクと判定します。

栄養ケアマネジメントスクリーニングアセスメント

食事提供のための必要事項(食事形態、療養食や食物アレルギー、禁忌食品の有無、嗜好、食事摂取行為の自立度など)を記入し、改善すべき栄養上の問題を総合的に評価・判定を実施し(スクリーニングにおいて中、高リスクの場合はアセスメントⅡも必要)、これらを経て栄養ケア計画書の作成となります。 ケア計画対象者の家族の意向、解決すべき課題、目標等を記入し多職種の協力のもとに得られた食物アレルギーや偏食についての詳細、義歯や視野狭窄、療養食の有無、利き手(右、左) などの食事摂取に関わる情報により個々に応じた食事提供の目標を作成する。目標には短期目標と長期目標とを掲げ、短期目標には具体的に 定量的評価ができ、対象者が生活していく上で 最優先されるべきこと、早急に解決されるべきことを記入する。長期目標には QOL に関連する栄養状態に関わることを掲げる。ポイントは施設サービス計画と連動させることであり、また栄養ケア計画書には本人あるいはその家族の署名が必要である完成した栄養ケア計画書に沿って提供した食事について低、中、高リスク 者とも一定の期間経過後モニタリングを実施し、 その結果により必要に応じて栄養ケア計画書の修正を行う。 栄養ケア・マネジメントを適切かつ合理的に実施するには一連の流れを良く把握するとともに各方面の協力を得ることが必須である。多職種による栄養ケアは計画書作成時だけではなく、 計画書に沿った栄養ケア(口腔ケア、摂食嚥下リハビリ、服薬指導等)実施時にも必要である ので、経過報告など常に各部署と連絡を取りながら進めるようにしたい。

栄養スクリーニング・アセスメント・モニタリング

栄養マネジメント加算について(参考資料)
栄養マネジメント加算について
日本栄養士会HPより引用
基本単位数 算定・請求上の留意事項
栄養マネジメント加算 14単位/日 (※) 別に厚生労働大臣が定める基準に適合するものとして都道府県知事に届け出た指定介護老人福祉施設における管理栄養士が、継続的に入所者ごとの栄養管理をした場合、栄養マネジメント加算として、1日につき所定単位数を加算する
経口移行加算 28単位/日 (※)

別に厚生労働大臣が定める基準に適合する指定介護老人福祉施設において、医師の指示に基づき、医師、歯科医師、管理栄養士、看護師、介護支援専門員その他の職種の者が共同して、現に経管により食事を摂取している入所者ごとに経口による食事の摂取を進めるための経口移行計画を作成している場合であって、当該計画に従い、医師の指示を受けた管理栄養士又は栄養士による栄養管理及び言語聴覚士又は看護職員による支援が行われた場合は、当該計画が作成された日から起算して180日以内の期間に限り、1日につき所定単位数を加算する。ただし、栄養マネジメント加算を算定していない場合は算定しない。


経口による食事の摂取を進めるための経口移行計画に基づき、管理栄養士又は栄養士が行う栄養管理及び言語聴覚士又は看護職員が行う支援が、当該計画が作成された日から起算して180日を超えた期間に行われた場合であっても、経口による食事の摂取が一部可能な者であって、医師の指示に基づき継続して経口による食事の摂取を進めるための栄養管理及び支援が必要とされるものに対しては、引き続き当該加算を算定できるものとする。

経口維持加算(Ⅰ) 400単位/月 経口維持加算(Ⅱ) 100単位/月 (※)

(1)単一建物居住者1人に対して行う場合 537単位/回
(2)単一建物居住者2人以上9人以下に対して行う場合 483単位/回
(3)⑴及び⑵以外の場合 442単位/回

⑴については、別に厚生労働大臣が定める基準に適合する指定介護老人福祉施設において、現に経口により食事を摂取する者であって 、摂食機能障害を有し、誤嚥が認められる入所者に対して、医師又は歯科医師の指示に基づき、医師、歯科医師、管理栄養士 、看護師、介護支援専門員その他の職種の者が共同して、入所者の栄養管理をするための食事の観察及び会議等を行い、入所者ごとに、経口による継続的な食事の摂取を進めるための経口維持計画を作成している場合であって、当該計画に従い、医師又は歯科医師の指示(歯科医師が指示を行う場合にあっては、 当該指示を受ける管理栄養士等が医師の指導を受けている場合に限る。)を受けた管理栄養士又は栄養士が栄養管理を行った場合に、当該計画が作成された日の属する月から起算して6月以内の期間に限り、1月につき所定単位数を加算する。ただし、経口移行加算を算定している場合又は栄養マネジメント加算を算定していない場合は、算定しない。 


⑵については、協力歯科医療機関を定めている指定介護老人福祉施設が 、経口維持加算(Ⅰ)を算定している場合であって、入所者の経口による継続的な食事の摂取を支援するための食事の観察及び会議等に、医師(指定介護老人福祉施設の人員、設備および運営に関する基準第4条第1項第1号に規定する医師を除く。)、歯科医師、歯科衛生士又は言語聴覚士が加わった場合は、1月につき所定単位数を加算する。

経口による継続的な食事の摂取を進めるための経口維持計画が作成された日の属する月から起算して6月を超えた場合であっても、摂食機能障害を有し、誤嚥が認められる入所者であって、医師又は歯科医師の指示に基づき、継続して誤嚥防止のための食事の摂取を進めるための特別な管理が必要とされるものに対しては、引き続き当該加算を算定できるものとする。

療養食加算 6単位/回 <参考資料> ・1.ヲ(P98)

次に掲げるいずれの基準にも適合するものとして都道府県知事に届け出た指定介護老人福祉施設が、別に厚生労働大臣が定める療養食を提供したときは、1日につき3回を限度として、所定単位数を加算する。 イ
食事の提供が管理栄養士又は栄養士によって管理されていること。


入所者の年齢、心身の状況によって適切な栄養量及び内容の 食事の提供が行われていること。


食事の提供が、別に厚生労働大臣が定める基準に適合する指定介護老人福祉施設において行われていること。

再入所時栄養連携加算 400単位/回 <参考資料> ・2.二(P109) 別に厚生労働大臣が定める基準に適合する介護老人保険施設に入所(以下この注において「一次入所」という。)している者が退所し、当該者が病院又は診療所に入院した場合であって、 当該者が退院した後に再度当該介護老人保険施設に入所(以下この注において「二次入所」という。)する際、二次入所において必要となる栄養管理が、一次入所の際に必要としていた栄養管理とは大きく異なるため、当該指定介護老人福祉施設の管理栄養士が当該病院又は診療所の管理栄養士と連携し当該者に関する栄養ケア計画を策定した場合に、入所者1人につき1回を限度として所定単位数を加算する。ただし、栄養マネジメント加算を算定していない場合は、算定しない。
低栄養リスク改善加算 300単位/月 <参考資料> ・2.チ(P113)

別に厚生労働大臣が定める基準に適合する介護老人保険施設において、低栄養状態にある入所者又は低栄養状態のおそれのある入所者に対して、医師、歯科医師、管理栄養士、看護師、介護支援専門員その他の職種の者が共同して、入所者の栄養管理をするための会議を行い、入所者ごとに低栄養状態の改善等を行うための栄養管理方法等を示した計画を作成した場合であって、当該計画に従い、医師又は歯科医師の指示を受けた管理栄養士又は栄養士(歯科医師が指示を行う場合にあっては、当該指示を受けた管理栄養士又は栄養士が、医師の指導を受けている場合に限る。)が、栄養管理を行った場合に、当該計画が作成された日の属する月から6月以内の期間に限り、1月につき所定単位数を加算する。ただし、栄養マネジメント加算を算定していない場合又は経口移行加算若しくは経口維持加算を算定している場合は、算定しない。 


低栄養状態の改善等を行うための栄養管理方法等を示した計画に基づき、管理栄養士又は栄養士が行う栄養管理が、当該計画が作成された日から起算して6月を超えた期間に行われた場合であっても、低栄養状態の改善等が可能な入所者であって、 医師の指示に基づき継続して栄養管理が必要とされるものに対しては、引き続き当該加算を算定できるものとする。

参考資料:指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成十二年厚生省告示第二十一号)(抄)【平成二十七年四月一日施行】(全文99ページ)

給食管理業務

厨房の作業から配膳、喫食、下膳に至るまで統括的に管理をします。
具体的には、衛生管理、献立作成、配膳・盛りつけチェックなどです。
現場に入ることもありますが、基本的には統括・管理が主であり、今後はこの流れは強くなっていくことだと考えられます。
老人ホームなどでは長期入所が基本となるため、行事食は非常に重要であり、都度四季に応じた食事を提供します。食べることが好き、献立を考えることが好き、という管理栄養士は、入所者からの距離が近いこともあり、やりがいの感じられる職場だと言えます。
おじいちゃんおばあちゃん、高齢者とコミュニケーションを取ることが好きな方には天職かもしれません。

給料・賞与(ボーナス)について

月給15~25万円(資格手当含む 残業代含まず)

賞与 0.5~5カ月/年

休日・休暇について

入所者の給食管理業務が主となるため、定刻勤務ではなく、シフト制となる傾向にあります。
老人ホームの管理栄養士は1人配置であることも多く(多くても2人程度)何かトラブルがあった場合など出勤しなくてはならないケースもあります。
また基本的には正月やクリスマスなどは勤務しなくてはいけないところが多いです。
イベント毎は頻繁に行っている施設も多く、そういったものを楽しめる方は良いかもしれません 休日
週休2日程度 夏期休暇など 0~5日
年間有給20日

老人ホームでも近年は給食業務においては委託が入っているところも増え始め、こういった場合、施設側で雇われている管理栄養は1人のこともあります。
したがって何かトラブルがあった場合に出勤しなくてはいけないというケースも出てきます。

就業時間帯について

6:00~20:00(早番・遅番などもあり)
定刻勤務の施設もあります。施設毎違うので、確認する必要性がありますね。

残業について

施設によって違いますが、一般的には残業がある場合もありますが、近年は残業をなくす方針をする施設も増えてきています。
良くも悪くも一人職や多くても3人までの施設が多いですので、残業は自分の業務効率次第というところもあります。

転勤や異動はあるの?
同じグループ病院や施設があるケースがあり、その中での異動はあるかもしれませんが、基本的にはあまりないと思っておいて下さい。

老人ホームの就職に有利な関連資格は?

摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士(高齢者施設では最強の認定資格です)
しかし、取得状況は中々厳しく、新卒では取得ができません。(以下参照)

摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士取得する方法

管理栄養士取得してから、まず嚥下リハビリテーション学会認定士を取得します。

嚥下リハビリテーション学会認定士の取得条件としては、次の3つを全て満たす必要があります。

☑日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士の会員歴2年
☑摂食嚥下の臨床研究歴通算3年以上
☑eラーニング修了(摂食嚥下リハビリテーション学会HP)

日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士の詳細はこちら

リハビリテーション学会認定士を取得してから認定に必要な申請資格

☑ 管理栄養士を取得後5年以上の実務経験を有し、摂食嚥下障害を持つ者(児)に関わる栄養管理に通算3年以上従事していること。
☑ 日本栄養士会および嚥下リハ学会が指定する研修(以下、「摂食嚥下リハ栄養専門研修」という。)の履修を必須とする。
☑ 摂食嚥下機能に関する実績5症例および実務経験歴を提出すること。
☑ 摂食嚥下リハビリテーションおよび栄養分野の学術集会・地方会または関連する研究会等において、摂食嚥下に関する筆頭発表、もしくは筆頭論文を過去3年間のうち1篇以上有すること。

日本栄養士会HPより

老人ホームへ就職し、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士を目指していくというのも有りです。
認定資格さえとってしまえばそこで働き続けてもよし、病院へ就職するのも容易となります。

就職活動

学校で紹介してもらいましょう。教員に聞いてもいいですが、就職支援センターみたいな窓口があればそこがベストでしょう。

まとめ

近年、栄養管理における嚥下機能の役割の重要性が高まり、もともと嚥下のスペシャリストである言語聴覚士の他、管理栄養士においても嚥下のスペシャリストが増えてきています。食事の形態や嚥下に興味がある人でしたら、まさにぴったりの職場と言えるかもしれません。

今後さらなる高齢化の進む日本においては、こういった嚥下のスペシャリストや、口腔評価もできる管理栄養士のニーズはどんどん高まっていくはずです。

摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士という認定資格もあります。こういった資格を目指していくのもいいでしょう。