
入院すると、当たり前の様に出てくる病院給食ですが、国の定めた制度により様々な変遷を経てきました。この記事では、病院給食に大きな影響を与える食事療養費、つまりお金に関する視点から病院給食の歴史をみていきます。
■目次(押すとジャンプします)
病院給食の歴史概略
1889年(明治11年) |
脚気の患者に対する病院給食が開始 |
1902年(明治33年) |
聖路加病院 |
1920年(大正9年) |
慶應義塾大学病院 |
1948年 昭和23年 |
医療法制定 |
1950年 昭和25年 |
完全給食制度を策定 |
1958年 昭和33年 |
基準給食制度を導入 |
1961年 昭和36年 |
特別治療食加算を認定 |
1987年 昭和62年 |
病院給食業務の外部委託が認められる |
1992年 平成4年 |
適時適温提供への特別管理加算を認定 |
1994年 平成6年 |
入院時食事療養費制度の導入 食堂加算、選択メニュー加算を認定 |
1996年 平成8年 |
病院給食の院外調理を解禁 |
2006年 平成18年 |
入院時食事療養費を改定(評価算定を1日単位から1食単位へ。特別管理加算(適時適温等)を廃止。栄養管理加算を新設。平成24年入院基本料へ包括) |
病院給食の起こり〜平成6年まで
日本では1889年(明治11年)に内務省によって脚気の患者に対する病院給食が開始されました。
1902年には聖路加病院、1920年には慶應義塾大学病院で病院給食が導入されました。 1948年の医療法公布により病院給食が制度的に確立されました。
昭和25年には完全給食制度が開始され、昭和33年基準給食制度に入院時基本診療料の一部としての評価され、ここで給食加算として30点が付きました
昭和47年に入院時基本診療料の一部としての評価(給食加算:30点)だったものが廃止され、入院基本診療料とは別に給食料:40点と基準給食加算:15点が新設され、診療費と同様に医療費として賄われるようになりました。
昭和53年に給食料:100点へとアップ、基準給食加算:31点となり、医療食加算:10点が新設され、より必要栄養量確保に重点を置いた食事提供に評価が付くようになりました。
また昭和62年病院給食業務の外部委託が認められ、アウトソーシングが進む事となります。
平成4年に給食料:143点、基準給食加算:47点になり、特別管理給食加算(*2):10点も新設され、病院食は量の確保から質の改善へと変化していきました。
昭和47年 |
昭和53年 |
平成4年 |
平成6年 |
|
給食量 |
40 |
100 |
142 |
143 |
基準給食加算 |
15 |
31 |
47 |
47 |
特別食加算 |
11 |
28 |
35 |
35 |
医療食加算 |
10 |
18 |
18 |
|
特別管理給食加算 |
10 |
10 |
平成6年〜入院時食事療養費制度の導入
平成6年10月の入院時食事療養費制度の導入です。ここでおおきなパラダイム・シフトが起こりました。
入院時食事療養費制度導入理由は、入院時の食費が、保険給付の対象としつつも、在宅と入院の費用負担の公平化を図る観点から、在宅と入院双方に掛かる費用として、食材料費相当額を自己負担化することで、患者側のコスト負担意識を高めることによる、食事の質向上も期待したものでした。入院時食事療養費は、従来の基準給食加算の要件を満たす保険医療機関においては入院時食事療養(Ⅰ)を、その他の保険医療機関においては、入院時食事療養(Ⅱ)を算定することとし、当時の給食料:143点と基準給食加算:47点の計の190点をそのまま1900円に置きかえたものとなりました。
併せて、食堂加算50点、選択メニュー加算17点が新設され、栄養管理だけでなくサービス向上につながる施策が次々と導入されました。
平成8年に医療法施工規則改正によって院外調理が解禁:経営改善策の一環としてのセンター化に道が拓かれた背景には、HACCP(ハシップ ※ハサップではなく、ハシップと発音することが正しい)などによる衛生管理の向上があります
平成9年には消費税率引き上げへの対応のため、入院時食事療養費(Ⅰ・Ⅱ)に20円を加算されました。
平成12年、介護保険施行されました。
平成17年、介護保険における食費・居住費(光熱水費相当)の見直しがされた。
平成18年〜入院時食事療養の大幅な改定
平成18年、療養病床については、介護病床と同様に「住まい」としての機能を有していることに着目し、入院時生活療養費制度が導入され、食費・居住費(光熱水費相当)の自己負担化がされました。また同年4月の入院時食事療養費の改定により、食事療養費の算定が1日単位から1食単位へと改定されたことに加え、適時適温等に対する特別管理加算の廃止、特別食加算の減額が行われ、栄養部門の収支に大きな影響を与え、苦しい運営を余議なくされる要因となっていきます。他方、栄養管理実施加算(現在はありません)、NST加算(栄養サポートチーム加算)が相次いで新設され、患者個々の栄養状態の把握と細やかな対応が求められることとなりました。
この辺りから、選択と集中や、モノからサービスへという言葉が生まれ始め、NSTが急速に広まり、また病院管理栄養士は病棟へ上がり患者の栄養管理をすることが求められてきました。
平成6年10月 |
平成8年 |
平成9年 |
平成18年 |
平成24年 |
平成28年 |
|
1日当たりで算定 |
1食当たりで算定 |
|||||
入院時食事療養(Ⅱ) |
1500 |
1500 |
1520 |
506 (1518) |
506 (1518) |
506/455 (1518/1365) |
入院時食事療法(Ⅰ) |
1900 |
1900 |
1920 |
640 (1920) |
640 (1920) |
640/575 (1920/1725) |
特別食加算※1 |
350 |
350 |
350 |
76 (228) |
76 (228) |
76/0 (228/0) |
医療用食品加算 |
180 |
|||||
特別管理加算※2 |
200 |
200 |
200 |
注1 |
||
食堂加算 |
50 |
50 |
50 |
50 |
50 |
50 |
選択メニュー加算 |
50 |
50 |
50 |
注2 |
||
栄養管理実施加算※3 |
12点 |
入院基本料へ包括 |
||||
その他備考 |
消費税3→5% |
注3 |
※1:平成10年度改定で「高血圧症に対する減塩食」が、また平成18年度改定で「経管栄養のための濃厚流動食」が対象外となった
※2:常勤管理栄養士の1名以上の配置、適時の食事提供(夕食は午後6時以降)、保温食器等を用いた適温の食事提供
※3:常勤管理栄養士の1名以上の配置等(給食管理以外の栄養管理業務も対象)
注1:常勤管理栄養士の1名以上の配置は栄養管理実施加算として評価 適時適温提供は入院時食事療法(Ⅰ)の算定条件に
注2:平成18年度改定以降は、入院患者の選択と同意による「特別メニュー加算」を設定。17円/食 を基準で全額患者負担
注3:市販流動食を経管栄養法で提供した場合、食事療養費1割減額&特別食加算算定不可
臨床栄養の発展
臨床栄養界隈を見渡してみると、栄養に関する知識、技術もここ10年で発展し、今や管理栄養士も病棟でフィジカルアセスメントを実施することは珍しくなくなってきたばかりでなく、管理栄養士以外のコメディカルも積極的に栄養に関する研究発表や論文を執筆したりなど、臨床栄養界隈は盛り上がりをみせています。栄養に関するアウトカムも方法論や結果などは、最近徐々に出始めてきており、栄養管理をしっかり行うことは、患者にとってだけでなく、病院経営的にもプラスにあるということがわかってきました。
まとめ
病院給食を国の制度である、食事療養費や算定報酬など、お金の観点からみていくと、様々なことに気付かされます。国の制度によって、病院の栄養管理または栄養部門は大きな影響を受けますよね。
しかし、国の施策を動かすことことも、またわれわれの仕事の一つであり、こつこつと研究発表や論文執筆を行っていくことも重要です。こういった学術活動は、栄養行政や政治にも影響を与えます。
今後はさらに、管理栄養士の専門化がすすみ、然るべき栄養管理においては、診療報酬加算がつくようになるでしょう。その過程で、どんな形であれ管理栄養士の地位も向上するものだと考えられます。