消化器

消化器系の働きは消化と吸収です。消化とは、食物を摂取し、その中に含まれている種々の栄養素を体内に吸収できる様な物質まで分解し、不要なものを体外に 排出することをいいます。消化には、機械的消化と科学的消化の2つがあります。化学的消化には、管腔内消化と膜消化の2段階があります。吸収とは、摂取し た水、無機物質、および消化によって生じた種々の物質を体内に取り入れることをいいます。

消化器系は、中腔性器官と実質性器官があります。

中腔性器官

中腔性器官:口腔、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸、)大腸(盲腸、虫垂、上行結腸、横行結腸、下降結腸、S状結腸、直腸)、肛門、唾液線、肝臓(胆嚢)

中腔性器官の壁は、表面が上皮に覆われた粘膜面、粘膜固有層、平滑筋でできている筋層、外膜(漿膜)で構成されます。

実質性器官

実質性器官:膵臓

実質性器官は小葉構造を示します。

消化器系

口腔の構造

口蓋は、口腔と鼻腔の境で、前3分の2は骨を土台にして作られているので硬口蓋、後ろ3分の1は骨格筋を土台としているので、軟口蓋と呼ばれています。

完成したヒトの上下の歯列弓は、それぞれ左右8対の永久歯(切歯2本、犬歯1本、小臼歯2本、大臼歯3本)で合計32本です。
乳歯は20本です。生後6ヶ月で乳歯が萌出します。

口腔の構造

大臼歯の構造

歯の組織の主体は象牙質で、無機質を70%含みます。化学組成は骨組織に似ていますが骨より硬いです。また歯冠はエナメル質が覆います。エナメル質は97%が無機質からなり、人体中もっとも硬い組織です。歯根はセメント質が覆います。

歯の構造

舌の表面は粘膜に覆われ、無数の舌乳頭を形成します。乳頭は糸状乳頭、茸状乳頭、有郭乳頭、葉状乳頭の4種類です。味覚の受容器である味蕾は、有郭乳頭、葉状乳頭に豊富にあります。口蓋や茸状乳頭にも少数分布しています。

舌

唾液腺

唾液腺は3種3対あります。(耳下線、顎舌線、舌下)
唾液腺

嚥下の機構

嚥下運動を調節しているのは、延髄にある嚥下中枢であり、迷走神経を介して調節されます。
口腔期(嚥下の第1期)、咽頭期(嚥下の第2期)、食道期(嚥下の第3期)に区別されます。5期に区別される事もあります。
咽頭期において最も重要な事は気道の閉鎖で、気道へ飲食物が入り込む事を防ぎます。食道の蠕動運動で食塊は胃へ送られます。
食道の壁は粘膜、筋層、そして、筋層の外には消化管に通常見られる様な漿膜は存在しません。粘膜上皮は重層扁平上皮で出来ています。
粘膜固有層と粘膜下組織との間には、平滑筋からなる粘膜筋板があります。

食道の構造

消化管運動の仕組み

蠕動は消化管に共通の運動です。基本的に副交感神経の興奮で亢進し、交感神経によって抑制されます。
異の蠕動運動は、食物の移送の他に攪拌、混和に利用されます。

胃の運動

また、小腸の運動は、3つの型に分けられます。
①分節運動:食物混和
②蠕動運動:輸送
③振り子運動:食物の混和、輸送両方

小腸運動は、基本的には、輪状筋と縦走筋の自動性が、腸管壁内にあるアウエルバッハの筋層間神経叢とマイスネルの粘膜下神経叢の調節を受けて生じています。

大腸の運動は小腸に近いところでは、蠕動運動、分節運動、振り子運動など小腸の運動と同じ様な運動が見られますが、肛門の方に下がるにつれて、次第に蠕動運動のみが主となります。

糞便形成と排便の仕組み

大腸に送られた粥状の腸内容物は、水分が吸収され、固形の糞便に形を変えて行きます。直腸に内容物が入ると便意を感じる様になります。
肛門には、平滑筋の内肛門括約筋と横紋筋の外肛門括約筋とがあり、内肛門括約筋は自律神経の支配する不随意筋でありますが、外肛門括約筋は陰部神経の支配する随意筋であります。排便の中枢は仙髄にあります。

排便反射

脳相

脳相における消化機能

摂食前の状態で、視覚、聴覚、嗅覚刺激により、迷走神経を介して唾液、胃液、膵液の分泌が増加します。

胃相

胃相における消化機能

胃液は1日に1~1.5ℓ分泌されます。またその主要成分は塩酸とペプシン(タンパク質分解酵素)です。
塩酸は壁細胞から分泌され、ペプシンはペプシノーベンの形で主細胞から分泌されます。塩酸によってペプシンはペプシノーゲンに変化します。胃の幽門部にあ るG細胞によってガストリンが血液中に分泌されます。ガストリンは血液によって、胃底腺に運ばれて、胃液の分泌を促します。
壁細胞はまた、ビタミンB12を吸収するのに必要なタンパクである内因子を分泌します。

胃

胃底腺の細胞

※内因子とは壁細胞から分泌される糖蛋白であり、ビタミンB12と結合して回腸で吸収されます。胃の摘出手術を受けた場合、ビタミンB12の吸収不全となり、貧血をきたすことがあります。このことを悪性貧血と言います。

腸相

腸相における消化機能

腸相における消化が全体の約70%を占めるのです。膵臓から膵液、肝臓から胆汁が分泌されて、小腸腔内に運ばれた食物を吸収できるような小分子の物質まで 分解します。脂肪の分解産物である脂肪酸やアミノ酸などが胃から十二指腸に流入してくると、コレシストキニンがI細胞から血中へと分泌されて、神経を介し て膵臓からの消化酵素の分泌を増加させます。

コレシストキニンは胆嚢を収縮させて胆汁を腸管内に排出します。同時に迷走神経の求心繊維の末端に作用して、満腹の情報を脳に伝えます。
胃酸が流入するとセクレチンが分泌されて膵臓に働き、重炭酸イオンの分泌を促し、胃酸を中和させます。
胆汁酸は、表面張力を低下させ脂肪の乳化を起こし、リパーゼの酵素作用を受けやすくすることで、脂肪の分解を促進します。

脂肪の分解で生じた脂肪酸とグリセリンは胆汁酸と結合する事でミセルを形成し、その結果脂肪の吸収が促進されます。
胆汁色素はヘモグロビンの分解産物でビリルビン(非抱合型または間接)といいます。非抱合型ビリルビンは肝臓で抱合され(抱合型または直接)胆汁中に排泄されます。
胆汁酸は下部小腸で吸収されて、門脈を経て肝臓に入り、再び胆汁中に排泄される腸肝循環であります。

ビリルビンの代謝

膵臓における消化機構

膵臓は後腹膜に密着し、全面だけが腹膜に覆われています。膵臓の実質は消化酵素に富んだ膵液を分泌する外分泌部とランゲルハンス島という内分泌部からなります。
膵液は1日に500~800mℓ分泌されて、重炭酸イオンを多く含んでおり、弱アルカリ性であります。
主な働きは消化酵素分泌と、酸性内容物の中和です。主な消化酵素としてタンパク質分解酵素(トリプシン、キモトリプシン、)脂肪分解酵素のリパーゼ、炭水化物分解酵素のアミラーゼがあります。
タンパク質分解酵素は不活性型のトリプシノーゲン、キモトリプシノーゲンの形で分泌されます。腸管内のエンテロキナーゼにより、トリプシノーゲンがトリプシンに変換され、トリプシンがキモトリプシノーゲンを活性化します。

膵臓

主な消化管ホルモン

主な消化管ホルモンとして

ガストリン→胃の幽門部粘膜のG細胞から分泌されます。作用としては胃酸の分泌&ペプシノーゲンの分泌など。

セクレチン→胃酸が十二指腸に入ると小腸のS細胞から分泌されます。作用としては膵臓からの炭酸イオンを分泌して十二指腸の酸を中和します。

コレシストキニン(CCK)→小腸のI細胞から分泌されます。膵酵素の分泌と、満腹効果があります。

吸収

消化酵素によって分解された栄養素は主に小腸上部で吸収されます。胃ではアルコールが吸収されますが、その他はほとんど吸収されず、大腸では水分とわずかな塩類が吸収されるに過ぎません。
小腸粘膜は単層円柱上皮からなります。小腸内腔には高さ1mm前後の突起、絨毛があります。絨毛の内部にはリンパ管と毛細血管があり、効率よく食物の分解産物を吸収します。

吸収上皮細胞の細胞表面にはびっしりと微絨毛(刷子縁)が生えており、微絨毛の膜には消化の最終過程を担う二糖類分解酵素、オリゴペプチターゼが組み込ま れています。これらの酵素により、栄養素は単糖、ジペプチド、アミノ酸に分解されます。このような過程を膜消化と言います。

絨毛

単糖、ジペプチド、アミノ酸は直ちに細胞内にとりこまれて、毛細血管に入ります。ブドウ糖は能動輸送によって吸収されるので吸収速度は速く、すぐに門脈を経て肝臓に行き、一部は筋細部に運ばれます。

中性脂肪(トリアシルグリセロール)は、膵液中のリパーゼによって脂肪酸とグリセリンに分解されたあと、胆汁酸塩と混ざり、ミセルとなって、絨毛表面に到 達します。絨毛の膜はリン脂質でできているので、ミセル中の脂質は単純拡散によって、膜を通過して、空腸と回腸の粘膜上皮細胞内に吸収されます。その後、 滑面小胞体で再合成され、ゴルジ装置で修飾を受けてカイロミクロンやリポタンパク質となり、細胞間腔に放出されて、リンパ管に入り、胸管を経て血液に入ります。